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2016.01.05 Tuesday
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しかし見ましたのは、死屍累々、どれも悲惨な状態でした。そこには繁茂も繁殖もなく、花も咲いていませんでした。このベランダには、死をいとおしみたい欲望があるように思えました。植物の群れが、その欲望に粛々としたがっておりました。植物と男とは、心中しかけているようにさえ見えました。
うまくいかないのにどうしても買ってしまうというものはあります? とわたしはききました。
シャクヤクです、と園芸家はそくざにいいました。
どうせ滅びるものを、だめに決まってるのに買っちゃって、無意識に、あえて死ぬところに置いてしまうのかもしれません、殺したいのかもしれません、いくつ枯らしたかわからない、これももう抜いてやらないと、といって園芸家は、干からびたシャクヤクの死骸を、わたしに見せました。
気にしませんよ、植物は、とわたしがいいました。
気にしませんよね、植物は、と園芸家がうなずきました。
植物にとっての「死ぬ」は「死なない」で「死なない」は「生きる」なんですもの、とわたしはさらにいいました。
そうですよね、殺してもいいんだ、殺しても、「死ぬ」をかなしいと思いおそろしいと思う人の心は植物にはあてはまらないんだろうな、と園芸家はにっこりとしていい、それから、思い出したように、ぽつんといいました。
タナトスが。
ちょっと黙って、またそっとくりかえしました。タナトスというかね。
そして口ごもりました。ほんとうだろうかそんな馬鹿なことがあっていいのだろうかと自問している心の動きが伝わってきました。